当院でのt-PA時の動きのメモ
発症から4.5時間以内のt-PA投与可能症例には、t-PA投与を念頭においた素早い対応が必要。
やること
opening 救急のABC評価(数秒)
麻痺の確認(30秒以内)
スタッフへの指示
病歴の聴取(発症時間、症状)
神経診察(NIHSS)
モニター装着、バイタル測定
ルート確保、血液検査
(12誘導心電図)
頚部血管エコー(簡易、1-2分)
体重測定
頭部CT撮影-胸部CT撮影
(頭部MRI撮影)
検査結果の確認
t-PA投与
opening 救急のABC評価(数秒)
救急の基本なのでやるようにしている。まず救急車から患者が降りた瞬間声掛け(名前、年齢など)して返答があるか確認。喘鳴なく返答があれば気道は通っている。呼吸も大丈夫。これだけ。循環はバイタル測定時(BP、SpO2)に行う。
麻痺の確認(15秒以内)
詳細な神経診察をする前に四肢麻痺の有無を確認する。救急隊がストレッチャーを運び入れる間などにやる。両手をあげてBarreをしてもらう。mingazziniまではやらなくていいかもしれない。これで運動麻痺があるのか?どちらの麻痺か?麻痺の程度は?がある程度わかる。そしてルート確保をどちらの腕(健側)でやればいいのかすぐ指示できるし、すぐにルート確保に移れる。
スタッフへの指示
ルート確保、モニタ装着、バイタル測定などを指示する。ルートは健側(右手or左手)を指示する。
病歴の聴取(発症時間、症状)
ルート確保、モニター装着、バイタル測定の指示を行ったら、救急隊から発症時刻や症状の内容、症状の時間的経過(改善があるのかないのか、TIAの先行など)、既往症、救急車内でのモニターなどをざっと確認する。一番大事なのは発症時刻、もとい最終健常確認時間。救急隊が18時発症といっても、信じちゃいけない。本人にも聞く。本人がはっきり答えられない場合は、スタッフ誰かに家族に聞きに行ってもらう。そして頭の中で本人の今日一日の動きをイメージして、整理する。起床時に気づいた場合は前日の就寝時間を確認する。ここで発症時間が4.5時間以上経過しているようであればt-PA適応がなくなるので、少しギアを落としてゆっくり診察することにする。
神経診察(NIHSS)
t-PA投与の判断にもつながるので、神経診察はNIHSSを基本とする。気になる症状があれば追加して診察して良いが、画像評価を遅らせてはいけない。また、openingで年齢など確認していれば年齢はスキップする。上肢Barreも行っていれば上肢の運動はスキップする。本当はNIHSSは順序よくやらないといけないが、t-PA対応の場合は臨機応変にやっている。
モニター装着、バイタル測定
すでにスタッフに支持しており、モニター装着、バイタル測定がされているはずである。必ずバイタルは確認する。血圧は高いのか?SpO2は拾えているか?モニター波形でsinusか不整かは心原性脳塞栓症の可能性を考えるに一助となる所見。
ルート確保、血液検査
スタッフがすでに行っているはず。ルート確保しつつ採血を行うことが速い。NIHSSで順番通りやっていると、ルート確保と上肢の運動の評価がかぶってしまう可能性がある。だからNIHSSの順番は無視してすぐにBarreだけはやっといたほうがいい。血液検査項目はt-PAに必要な項目を必ず入れる。血算(血小板)、PT-INR、APTT、AST、ALT、AMY。また後の血管造影検査や造影CT、エダラボン投与も考慮してCre、BUNは測定しておいたほうがいい。
(12誘導心電図)
脳卒中治療ガイドラインによれば、アルテプラーゼ静注療法の適応を決める前に必要な臨床検査と画像検査において1. 心電図とある。アダムス・ストークス発作との鑑別、急性冠症候群の有無の診断が主な目的だが、脳卒中でないと判断してから評価していいのではないかと私は思う。特に12誘導心電図が画像評価に移るまでの律速段階になることが多々ある(結構電極の貼付けが大変だったり、ノイズが乗って何回か取り直すことがある)。モニターがついているはずなのでモニターで不整脈がないかどうか、また病歴で胸痛のエピソードがなければACSを除外してもいいと思われる。私の勤めている病院ではよほど人手がある場合を除き、12誘導心電図は落ち着いてから評価することとしている。また、脳卒中治療ガイドラインに心電図と記載があるのみで、”12誘導”心電図と記載されていないというのは屁理屈だろうか?
頚部血管エコー(簡易、1-2分)
動脈解離の鑑別、主観動脈閉塞の鑑別に行う。椎骨動脈は描出に時間がかかる可能性があるので行わないことが多い。両側CCAをBモードでフラップがないか(解離の所見がないか)確認し、ドプラでダンプトパターンになっていないか、CCA ED ratioの上昇がないかを確認する。もしダンプトであったり、一側の拡張期が低くなっていれば(CCA ED ratioが上昇していれば)、ICAなどの主観動脈に血栓閉塞がおきている可能性がある=緊急血行再建の適応となる可能性がある。その場合はICAまでできれば血栓がないか確認する。描出が難しければ時間をかけず次の画像評価に速やかにうつる。また、脳外科や血管内治療科など血栓回収療法ができるチームに連絡を入れる。
体重測定
t-PA投与時には体重の評価が必要となる。私の病院ではt-PA患者用にストレッチャーごと乗れる体重測定台を救急室に用意している。すでにストレッチャーの重さは測定済みなので、引き算で患者の体重を推定する。洋服などの微妙な重さはこの際無視する。
頭部CT撮影-胸部CT撮影
頭部CTで出血がないか確認する。出血がなければwindow幅を80以下に調整し、早期虚血性変化(脳溝の消失、皮質-白質境界、島皮質の不明瞭化、レンズ核の輪郭不明瞭化)がないかを確認し、CT-ASPECTSを評価する。明確な規定はないが、CT-ASPECTS 4点以下では、t-PA投与後の安全性も低いのではないかとされており、当院では投与を控えることを考慮している。CT画像ではhyper dens MCA signも評価する。また、通常であれば胸部レントゲンで大動脈解離がないか評価するが、私の病院では頭部CTに引き続き胸部CTも撮影し、縦隔拡大、動脈解離がないかまで評価する。
(頭部MRI撮影)
可能であればCTで評価し、t-PA投与ができることが一番望ましいのであるが、脳出血がなくても症状がいまいち(構音障害のみや、顔面を含んでいない麻痺、両側性の症状など)であったり、来院後改善がみられている場合などで脳梗塞と断定できない場合は、MRIを撮影し脳梗塞の診断に至る。
検査結果の確認
上記が進行している間に血液検査結果が返ってきているはずである。t-PA禁忌項目に該当しないか確認する。
t-PA投与
体重で投与量を計算し、0.6 mg/kg/回、t-PAを投与する。投与前にバイタルをもう一度測定し、血圧の逸脱がないかなど評価する。アルテプラーゼ溶解に時間がかかるはずなので、この間に神経初見(NIHSS)をもう一度評価したり、落ち着いて検査結果を見直して本当に禁忌がないか、脳出血がないかなどを評価しておく。また、腎機能が悪くなければt-PAに先立ちエダラボンは投与しておく。MRIを撮影していなければ、t-PA投与開始後にMRIを撮影する。このために私の病院ではMRI対応シリンジなるものを導入している。そういったデバイスがない病院では、MRIに患者と一緒に入り、医師が手打ちでアルテプラーゼを投与したり、ルートを長くとり、MRI室のドアから出してシリンジポンプを繋いでいるという話も聞く。
t-PAの目標は来院から30分以内、血管内治療は来院1時間以内とのこと。
もっと簡素化できるんだろうか・・・。