あんまり脳卒中とは関係ないけど、DIで勉強したのでメモ。
家族性アミロイドポリニューロパチー(Familial amyloid polyneuropathy :FAP)
概要
トランスサイレチンの(遺伝的)変異によって引き起こされる全身性の(遺伝性)アミロイドーシス。数あるアミロイドーシスの中でも、免疫グロブリン性アミロイドーシス、老人性トランスサイレチン型アミロイドーシス、そしてFAPは指定難病に登録されている。
疾患概念
変異を起こしたトランスサイレチン、ゲルソリン、アポAIなどが、変異を起こし、アミロイド繊維タンパク質が組織に沈着する。常染色体優性の全身性アミロイドーシスのこと。そのうち、トランスサイレチン(TTR)が原因となるTTR-FAPが最も多い(TTR-FAP以外にもFAPはある)。
TTRの遺伝子変異は140以上報告あり。最も多いのはTTRの30番目のバリンがメチオニンに変異したVal30M3t変異。
通常4量体のトランスサイレチンは、変異型では不安定で、解離して単量体になりやすくなる。単量体になったトランスサイレチンはミスフォールディングされ、それらが重合、凝集してアミロイド繊維が形成される。
ファイザーHPより引用
形成されたアミロイド蛋白(異常蛋白)が末梢神経や自律神経、心臓、腎臓、消化管、眼などに沈着し臓器障害を起こす。
疫学・歴史
1952年にポルトガル医師Andradeが報告。世界各地で患者が確認。日本では熊本、長野に巨大な患者集積あり(若年発症Val30Met型)。1999年以降は集積地と関係なく全国から患者が報告されるようになった(高齢発症Val30Met型や非Val30Met型)。国内に700~1000人程度と推定されており、診断のついていない症例もそれ以上に存在すると思われる。
集積地Val30Met型
若年発症(20-40歳代)
家族歴を有する
性差なし
非Val30M3t型
高齢発症(50歳以上)
孤発例が多い
男:女 4:1
予後
未治療のFAPは発症後10-15年で死に至る。
症状
自律神経障害
陰萎、起立性低血圧、膀胱障害、皮膚症状(発汗障害、皮膚栄養障害、難治性潰瘍)
末梢神経障害
感覚障害:温痛覚低下(解離性感覚障害)、深部感覚低下、胸腹部の島状感覚低下
運動障害:筋萎縮(下位運動ニューロン障害の特徴)、筋力低下
臓器障害
脳:アミロイドアンギオパチー、髄膜アミロイドーシス
眼:瞳孔不整、対光反射消失、硝子体混濁、緑内障、ドライアイ
口腔:唾液分泌不良
甲状腺:甲状腺機能低下
心臓:心アミロイドーシスによる不整脈、心不全
胃腸:嘔気、嘔吐、交代性下痢便秘、腹痛、腹部重圧感
腎臓:尿路感染症、尿毒症、ネフローゼ症候群
手根骨:手根管症候群
診断
症候からアミロイドーシスを疑う→アミロイドーシスを示唆する検査所見のチェック→生検→免疫組織化学染色によるアミロイドーシスの病型同定。
症候は上記の症状であてはまるかをチェック
検査所見は各臓器障害の評価。心アミロイドーシスの評価は心エコーや心臓造影MRI、ピロリン酸心筋シンチグラフィ、BNP、トロポニンT、不整脈、伝導障害など。腎アミロイドーシスなら尿蛋白、BJPの検出。遺伝性TTRアミロイドーシスならMIBG心筋シンチグラフィで心臓交感神経の機能低下があるとのこと。また、神経伝導検査で末梢神経障害を示唆する所見の評価、自律神経機能検査など。
生検は腹壁脂肪吸引や消化管(胃、十二指腸)、皮膚、口唇など。または症候のある臓器からの生検。Congo red染色でアミロイド沈着を確認する。アミロイド沈着が証明されれば、生検病理により免疫組織化学染色を行い、病型同定。
病型にはAL、AA、ATTR、Aβ2M、その他がある。
ATTR陽性ならばATTRアミロイドーシスの診断となり、さらに遺伝子検査を行い、遺伝変異があれば、遺伝性ATTRアミロイドーシスの診断。TTR変異がなければ野生型ATTRアミロイドーシスの診断。
熊本大学のアミロイドーシス診療センター、信州大学のアミロイドーシス診断支援サービスのホームページで特殊検査(病型診断、遺伝子診断)ができる。
http://www2.kuh.kumamoto-u.ac.jp/amylidunit/
http://www.shinshu-u.ac.jp/faculty/medicine/chair/i-3nai/amyloidosis.html
治療
肝移植
異型TTRの95%は肝臓で産生されるから、肝臓を取り替えちまう。長期的エビデンスを有する根治的治療。レシピエントの制限あり(mBMI 600以上、発症後5年以下、Val30Met型、主症状は末梢神経障害で自律神経障害は軽度、60歳未満、Alb 3.5 mg/dl以上、新拡大なし、腎機能低下なし、自立歩行可能)。なかなか厳しく、またドナーの問題もある。
タファミジス(ビンダケル:ファイザー このDIだった。)
タファミジス = TTR4量体の安定化剤
上記疾患概念で示したモノマーに解離するところを、タファミジスが安定化させる。そしてアミロイドが作られなくなる。2013年9月にビンダケルとして国内承認。
対症療法
起立性的血圧にドロキシドパ、アメジニウム、弾性ストッキング、腹帯
貧血 エリスロポエチン
胃腸障害 モサプリド、メトクロプラミド
心不全 ACE-I、利尿剤
不整脈 ペースメーカー
などなど
なんか知らんかった疾患でした。恥ずかしい。
有名なんですね。しかも指定難病。
でもなんでもアリな疾患だなーと思いました。
神経内科って鑑別が思い浮かびすぎるから難しいよね。
家族歴のありそうな末梢神経障害とか自律神経障害に加えて多臓器に異常が出ている人がいたらこの病気を少し思い浮かべるようにしようと思いましたまる